編集員通信

　２月末日をもって引退する調教師、騎手。３月１日付けで免許を交付される調教師、騎手。ＪＲＡでは、３月１日が、騎手、調教師の年度変わりです。今年も初々しい新人ジョッキーがデビューし、中京競馬２日目の第２Ｒで関東の穂苅寿彦騎手が初騎乗初勝ちを飾りました。これまで、ＪＲＡで初騎乗初勝ちを飾った騎手は、昨年まで37人。穂苅騎手は38人目ということになります。意外に少ないとお思いになりませんか。つぎに、初騎乗初勝ちで、しかも、最後の騎乗でも勝った騎手は何人？申し訳ないですが、分かりません。ただし、一人だけは知ってるんです。中西武信騎手（現松田正厩舎調教助手）です。競馬ブックの中西勉ＴＭの実兄です。初勝利は昭和35年でした。最後の騎乗となった昭和61年２月23日の阪神競馬第10Ｒの千里山特別。馬はアドバンスボーイ。スッコ抜けのノーマークで、15頭立ての15番人気。普通なら見向きもしません。しかし、中西騎手の最後のレースです。私と中西ＴＭは相談しました。“最後のレースや、単勝こうて（買って）、記念にアニキにやろ”と。ホントに“ついで”に買った馬券でした。ところが、競馬はやってみないと分かりません。レースは、ハナ切って、楽逃げに持ち込んだアドバンスボーイの、よもや（失礼）の逃げ切り。ゴールインした瞬間、二人して大喜びし、握手、また握手。しばらくは余韻にひたっていました。そこへ聞こえてきたのが払戻しのアナウンス。「単勝15ば～ん6920え～ん」。それまで、二人とも単勝を勝ったことなど忘れていました。“ウンッ”。どちらからともなく顔を見合わせ、同時に声を出しました。“行こッ”と。レース前の、“兄弟愛”、“友人愛”は一体どこへ行ってしまったんでしょう。“すまんアニキ”と心で叫びながら、34600円ずつ二人のポケットに……。今の時期になると、よくこのことを思い出します。そして、二人のナサケナイ行動に赤面する次第です。〈ところで皆さん〉。もし、皆さんだったら、馬券をアニキにあげますか？それとも、私たちのように換金しますか？

（関西競馬ブックデスク・井戸本征彦）

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