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「デルタブルース……10キロ増で馬体は少し立派に映った。ただ、いい位置につけて、レースぶりは実にスムーズ。4角ではコスモバルクに並びかけて行き、追い比べでしっかりと抜け出す。長距離適性を示した一戦。ホオキパウェーブ……少しうるさかったが、特に問題ない程度。いつも通り後方から行ったが、終始内にこだわり、ロスのないように回ってくる。息の長い末脚を使って2着。……」
この記事は週刊ケイバブック・次走へのメモ(菊花賞)からの抜粋。この次走へのメモは現場でレースを観戦した担当者がVTRと記者席で放映されるパトロールビデオを参考にして原稿作成。それをパソコンで栗東本社に送信して、内勤の人間である我々が最終チェックするシステムになっている。各馬のレースでの動きを正確に観察して文章化するのはそれなりに大変な作業であり、それぞれの馬の本質をきちんと把握しつつ、精神面(イレ込み)や肉体面(コズミ等)についての考察も細やかに、対応しなくてはいけないのだ。とはいっても人間のすることなのだから見落としや勘違いも少なくはない。そんなときは我々の出番。VTRで見直したり現場に電話を入れて確認したりする作業が必要となってくる。
「あの次走へのメモは読者だけでなく、騎手である我々も大いに注目しています。そんなコーナーだからこそ、正確な記事を書いて欲しい。過去にはあの文章が原因で乗り馬から下ろされた騎手もいるんです。下手な乗り方をした騎手に責任があるのは当然ですが、仮に、誤った認識や誤った評価がそのまま文章になるとしたら、騎手にとっては死活問題にもなりかねません。もちろん、正当な批評は素直に受け入れていますが」
これは以前にあった騎手クラブ代表からの申し入れ。騎乗している側とスタンドで観戦している側とでは時として微妙な食い違いが生じる。送られてきた原稿が「大とびで芝向き」だったのに、レース後のインタビューでは「さばきが硬くてダート向き」だったり、「ペースが遅かったのに追走に汲々」が「ペースが速くてついて行けなかった」となったり。映像で再確認したりラップを調べたりしてより正確な原稿をと心がけている。「外々を回るロスがあって差し届かず」という原稿があっても、レース後のインタビューで「他馬を怖がって外へ逃げた」とか「手前を替えられずに外へモタれてしまった」という騎手の説明があれば「外を回らざるを得なかったぶん届かず」に校正する。批判の精神は必要不可欠だが、それが個人攻撃や中傷であってはいけない。事実関係をきちんと説明するのが基本で、次回につながる前向きな内容であるべきだと考えるから。
最後にNGになった次走へのメモをひとつだけ紹介する。矢印の後は校正担当者が言葉足らずだと判断して手を加えたもの。聡明なこのコラムの読者諸氏なら、なにが問題になったかすぐに理解してもらえると思う。
「下見所で馬っ気。これは太い」→「下見所で馬っ気。まだ馬体もかなり太目」
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競馬ブック編集局員 村上和巳
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