ホテルにチェックインしたのは土曜日の午後7時すぎ。シャワーで軽く汗を流してすぐに外出。狭い路地を抜けて広い道路を横断するとまた狭い路地。そこを通り抜けると目的の紺屋町に着く。ホテルからの所要時間は約6分。夜が更けると客引きの声が途切れることのない繁華街だが、まだ時間帯が早いこともあって人影はまばら。そこからなら目を閉じてもたどりつく通い慣れた『小柳』のドアを開けていつものカウンターに座る。名物のタンステーキとビールの組み合わせが絶妙。懐かしい味に心がなごむ。
「競馬がはじまってすぐに調教師の○○さんがきてくれたし、騎手の○○君も顔を出してくれたけ、ああ今年も競馬がはじまったんやなって思いよったばかり。なのに、もうすぐ終わるんやね。台風きちょるけ、帰りは気をつけんといけんよ」
昭和中期の洒落た洋食屋さんといった雰囲気を残しているこの店には20年近くも通った。長期出張の際にしっかり栄養を摂れたのはここの女将さんのアドバイスがあればこそ。いまでも感謝している。食事を終えるとまた狭い路地を通り抜けて次なる目的地の堺町へ。ビルの一角にある『なしか』にも15年ほど通っている。黒人音楽ファンの私にとっては単に酒が飲めるというだけでなく、この店のマスターのヴォーカルが聴けるというのも愉しみのひとつ。マスター(ヴォーカル&パーカッション)とその弟(ピアノ)とのライヴにはいつも引き込まれ、時間を忘れる。
「現場時代の村上さんの予想で忘れもせんのは、春の天皇賞でゴーゴーゼットに◎を打ったときやね。ひと目見てこれは外れやなと思いつつ、熱くなれる馬がおらんかったんやろなと心中を察しました。やむなくオレもその馬の馬券を買いましたけどね(笑)。最近はあまり競馬をせんけど、ネットの村上さんの原稿(編集員通信)は、いつも読んでますよ」
戦国時代の武将を思わせる風貌のマスターと昔話に花が咲く。競馬好きの教師や少林寺拳法の達人の会社員も途中参加。語って飲んで約4時間があっという間に過ぎ去った。いつもだと泥酔して這うようにホテルに帰るのだが、今回は珍しく酔わなかった。正確に表現すると、ライヴで最後に聴いた『OverTheRainbow』が酔いを吹き飛ばしてくれたのだ。そのヴォーカルは日本公演で同じ曲を歌ったエリック・クラプトンの歌声を遥かに超えていた。
翌日は二日酔いもなく爽やかに目覚め、予定通りの時間に競馬場へ到着。仕事もきちんと処理できた。考えてみれば、今年は中山、東京、大井と関東圏の競馬場に3度顔を出しただけ。関西圏の競馬場に出向くのは初めてだったが、馬券作戦は珍しくもプラス計上(極めて小額)。意気揚々と競馬場を後にした。本来ならもう一泊して飲み直し、佐賀や荒尾に足を伸ばしたかったが、大型台風が九州へ接近中ということで断念。日曜夜の新幹線で帰路についたのだが、そのまま家へ帰りつかないのが私の旅。車内で若手騎手と顔を合わせて意気投合。途中下車して日付が変わるまで京都で飲んだ。とうにナイスミドル(死語?)の世代になっているというのに、鉄砲玉みたいなこの性格は変わりようがない。
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