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愛知県豊明市の高台にある中京競馬場は関西圏では唯一の左回りコースとして知られており、小回りで平坦(正確にいうと多少の起伏はあるが)な独特の形態の馬場には、この時期になると文字通り絨毯のように芝が生えそろう。だから、開幕週の馬場では存分にスピード競馬が堪能できる。
しかし、この開催と梅雨が重なるため、雨の中でレースが行われることも少なくはない。そのために、後半の3、4週目になると目に見えて芝の状態が悪化しがち。馬場が荒れて時計がかかりはじめると、結果としてレースが難解になる。スピード面で見劣る馬が位置取りやコース取りひとつで上位に突っ込む可能性が出てくるからだ。そういったこともあって中京競馬は予想も馬券も的中率が低くなる。記者にとっては鬼門でもあるのだ。
しかし、中京競馬にはそれなりに楽しみもある。まずは馬場とスタンドが近い。阪神、京都だと馬場入りした馬を双眼鏡で観察しても豆粒ほどにしか見えない。しかし、中京だとそれほどの距離感がなく、馬自身の息遣いが伝わってきそうな気がして、レースも見やすい。また、競馬場で食事をするのも楽しみのひとつ。なにが楽しみかというと地方色豊かなメニューがそろっていて、値段も安いのだ。味噌煮込みうどんやきし麺、そして、どて丼(モツ煮込み)といった名古屋ならではのメニューには、どれから注文しようかと迷ってしまう。思わず「ビール一本」といいたくなる気持ちとの戦いに、毎回かなりのエネルギーを消費する。
そんな中京開催がこの後の阪神と入れ替わる形となってしばらくになる。『ダービーに出走した3歳勢が参加しやすい日程にして宝塚記念の更なる充実を図る』というのが開催日程を変更する当初の目的だったと記憶しているが、残念ながらその成果はあまり感じられない。昨年こそ二冠馬ネオユニヴァースが参戦してそれなりの盛り上がりを見せたが、終わってみれば古馬に完敗。立て直した秋以降も本来の姿を取り戻せなかった。あの結果を考えると、ダービーに出走した3歳馬がネオユニヴァースに続いて宝塚記念に参戦するとは考えづらい。古馬の場合は春の天皇賞から間隔があきすぎるのが問題であり、調整の難しい真夏にG1レースを施行するというのも有力馬の出走をためらわせる原因となっている。
「夏の阪神開催に使うと秋のG1シリーズのスタートまでに十分な休養を取れない弊害もある。宝塚記念後はオーバーホールの目的で放牧に出すのが普通。でも、放牧先でちょっとしたアクシデントがあった場合、日数不足で秋には思いどおりのローテーションが組めなくなる。秋の日程が詰まっている3歳馬には、よりその傾向が強い」
これはある競馬関係者の証言だ。京都―中京―阪神―小倉と続く春から夏へのスケジュールを、JRAはそろそろ考え直す時期にきているのではないだろうか。興行最優先はやむを得ないが、もう少し馬に対して思いやりのある開催日程を考えて欲しいものである。
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競馬ブック編集局員 村上和巳
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