編集員通信


“ステイゴールド重賞初制覇でホッ”

 普段に調教師や騎手と顔を合わせるのは追い日のトレセン記者席。それも、追い切り時計を聞きに来るごく少数の限られた人。お互いに決してヒマを持て余しているわけではないので、会話はあってもひと言、ふた言。込み入った話にはならない。
  おかしなもので、それで意が通じ合っている。相手の考えていることが分かり合える間柄になっているということ。6月7日(水)椅子の後ろに人の立っている気配を感じて振り向いて見ると、池江調教師がいた。
「やァ」
「お早ようさん」
「間もなくサンプレイス、ラウンドスペクター、アトラクティーボ3ツが来るから、時計を控えといて」
と言って去って行った。10分後に再びやって来て
「どうやった。ほほう、エエ時計やないの」
と満足顔。いつもならそれで話は終わり。調教師のコメントは厩舎担当記者に任せている。特にこちらも聞かないし、相手も喋ることはない。ところが言い忘れていた大切なことがあったので引き留めて、
「遅うなったけど、ステイゴールドお目出とうさん。G2でも勲章は勲章や、泰さんも肩の荷が降りたやろう」
お祝いと労いの言葉をかけると、だいたいが笑うと目がなくなる人。顔はクシャクシャ、目は横一文字「ありがとう」のひと言を聞く迄もなく、それで余すところなく喜びが伝わってくる。
「何せアドバイザー(?)が多くてなァ。負けるたんびに次から次へと手紙で指導してくれるんだわァ。こうした方がよい。ああしたらどうか、とね。有難いことですわ」
 苦笑しながら語る表情には、やっとその事からも解放される安堵感が浮かんでいた。8日に、宝塚記念ではグラスワンダーの騎手を的場から蛯名にチェンジすることを、尾形充師が明らかにした。乗り替わりの経緯についての詳しい説明は避けている。それと同じで、熊沢から武豊への乗り替わりについての事情はお互いに触れないで通るのが通例。口の軽さでタブーを破りついついそこへ水を向けると
「押っつけなくともスムーズに走っていたね。ただ、ラストはやっぱり内へササッていた。ササッても伸びが止まらないところが……」
いろいろあるんです。調教師と騎手の関係は、たった1度のことで終わるものではなく、むしろ以後も長く続くものだから。

編集局長 坂本日出男


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