「調教師伊藤雄二」ウソのないニッポン競馬、という本がKKベストセラーズ社から5月5日に出版された。大阪府出身、18歳で騎手見習いになり、59年に騎手デビュー。逝去した師匠、伊藤正四郎調教師の跡を継ぎ、29歳で史上最年少調教師へと転身。エアグルーヴやウイニングチケット、マックスビューティ等、幾多のG1ホースを育て上げてきたことで知られている。
良い馬を探して来て、最高に仕上げ、レースでは極上の騎手を鞍上に据えた。最高の料理人が最高の食材を用いて、最高の料理を作るのと同じ。“ここに馬券のヒントがある”そうだが、それはともかくとして、レース中における騎手の駆け引き、心理状態等をごく身近な、記憶に新しいG1の実戦から例題を取り上げプロの眼で具体的に分析している。それを知ったからといって、ファンもすぐ今日から同じ視点でレースを見ることが出来るのかとなると、イエスとは言えない。経験とセンス等の複合によるものだから。ただ単に、騎手はそんなことを考えながら乗っていたのか。伊藤師の目にあの場合はこんな風に映っていたのか、と知るだけでも我々の目を見開かさせるはず。
“四位には理想を語り、蛯名にはちょっとだけ背伸びした競馬を語れば良い” “武豊は周囲がエキサイトしていても、冷静でいられる眼を最初から持っていた騎手だった”とか、騎手の技術や性格を端的に評していて、言い得て妙。“馬に対する基本は愛撫と懲戒”だとか、競馬の根本にも及び、楽しみ方の枠を広げてくれること請け合い。
巻末の“世界を知る者だけが語ることの出来る日本馬の本当のレベルについて”スペシャルウィークの白井調教師、武豊騎手との鼎談がまた興味深く、是非一読をお勧めしたい。
編集局長 坂本日出男
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