編集員通信


“応援してやって、新生、岸騎手”

 1988年に初騎乗、デビュー2年目にしてGiエリザベス女王杯をサンドピアリスで制し、3年目にはエイシンサニーでオークスを、そしてダイタクヘリオスとのコンビでマイルチャンピオンシップを連勝。7年連続で重賞を勝って(通算16勝)きた岸滋彦騎手。

 昨年の夏、小倉出張中に道路を横断しているところを車に撥ねられ、右腓骨々折、膝内障で療養にあたっていた。当初は全治1カ月の診断が延び延びで半年も要し、3月4日阪神3日目でどうにかカムバックにこぎつけている。

 3月11日中京3日目4R未勝利戦のベラクルスでの勝利は、実に7カ月ぶりのものであった。前2頭の競り合いを見ながら進め、計算通りの差し切りには腕の錆などさらさらない感じ。
 ここ3年ぐらい急速に騎乗依頼が減少、かつて自分が辿って来た道を今は若手が大手を振り罷り通って行っているのを目のあたりにし、いつしか隅へ追いやられている立場を痛切に悟らされている。

 丁度私事で診察を受けに行った先で、偶然リハビリ中の岸と鉢合わせした。心もち跛行していたが、気をつけて見ないと分からないぐらい迄に回復していた。性格は悪くないし、礼儀も心得ている。人から嫌われるタイプではない。

 “待ってへんと、自分から求めて行かんと騎乗馬は回って来へんで”と老婆心で言うと、頷き“謙虚に、頭を下げて探し回りますワ”と笑顔を返す。

 川田TMに“どうや、岸の評判は?”と聞くと、走らん馬やけど頼むわと気兼ねしながら依頼する調教師に“いえ、乗せて頂けるだけで有難いと思ってます”と素直に礼を言う。人として丸みが出て来たように思うと言っている。

 一旦翳りが出ると、元に戻すのが大変なこの社会、前途は多難ながら、腕は達者、根気よくやって新生“岸滋彦”で年間600騎乗以上した94年ぐらいを目指し頑張ってくれるのを楽しみにしている。

編集局長 坂本日出男

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