“コウユーラヴを勝たせた手段”
2月12日、京都5日目2Rで、デビュー戦3着のあと2着が7回も続き、武豊へバトンタッチされたコウユーラヴが、3着ののちに待望の初勝利を挙げた。武豊が初めて跨った時は、上がり39秒7もかかってバタバタにバテており、戦術転換を匂わす厩舎サイドのコメントがレース前にあった。キャリア20年以上の記者がこぞって“故意ではなく、馬がアオっての出遅れ”と言ったスタートについては、私は否定する。あれは意識的な出遅れだ。五分のスタートを切れば馬の気性からして出て行き、下げるに下げられなくなるだろう。後からじっくり行かせるには、出遅れることこそ最善だ。スタート時にジョッキーは体重を前へかけ、始動し易い態勢を作らせてやる。武豊は、発馬寸前で左の手綱を引き心もち顔を外へ向けさせ、自らは重心を後ろへ残した。それにより、アオる形を作ったと見た。達者なジョッキーならそのぐらいの技術は持っていると確信する。もっとも、パトロールビデオをどうこね回して検察しても、外見で故意か偶然か判別のつく種類のものではない。故意という表現は公正競馬を毒するものと受け取られがちな現状では、誤解を招かない為にも騎手は絶対に「出遅れさせた」とは言わないだろう。つい先日、共同通信杯4歳ステークスで人気のラガーレグルスが出遅れ、ひと騒動あった直後。あれは、誰の目にもゲート内膠着で出なかったと映っているが、スタートは五分に出るよう心掛けていてもそうしたことが起きる。競馬施行規程の93条の(2)緩慢に発走させた場合(3)発走合図を受けたのに発走させなかった場合、の項に抵触し裁決委員から事情聴取をされることになる。勝たんが為に努力し、あの手、この手をつくすのだが、手段や方法によっては正当性を認められないこともあるだろう。今回の件に関しては、勝ったから何事もなくすんだ。武豊はコウユーラヴの秘められていた良い面を掘り起こすことに成功しながら、自分の手柄の部分には触れず、「今日のデキならハナを切っていても勝っていたろう」とデキの良さを強調するコメントを残している。いかにも武豊らしく、前任者への労りの意味が強く感じられる。
|
(C) 1999 NEC Interchannel,Ltd./ケイバブック