編集員通信


“この乗り味は忘れたくない”

 上位4頭が轡を並べてゴールへ雪崩れ込み、有終の美を飾るに相応しい名勝負となった第44回有馬記念。

 イレ込みが激しかったのと逃げ馬不在の組み合わせになってしまったため、予め見当はついていたが、それにしてもよもやの超スローペース。生きの良い4歳の挑戦者ナリタトップロードはたまらず折り合いを欠いてしまい、脆い一面を曝して土壇場まで保ちこたえることが出来ずに沈んで行った。もう1頭のテイエムオペラオーがゴール寸前で古馬の間に割って入り、あわやの3着で大観衆を沸かせた。

 エルコンドルパサーが凱旋門賞を終えると、時を待たずに現役引退を表明した為に、小粒化を心配されたものだが、蓋をあけてみれば人気投票ベスト3に、4歳のクラシックウイナーのテイエムオペラオー、ナリタトップロードが加わって、小粒どころか名実共に日本一の座を巡る豪華絢爛な争いをくり広げてくれた。

 殆どのジョッキーはダートと違って芝での位置取りには特別神経を遣わないようだが、この日のスペシャルウィークの武豊は、明らかに一般常識の枠からはみ出た位置取り。白井師も“もう少し前へ行くようアドバイスしておけば良かった”と一瞬後悔したそうだが、その直後、猛烈な追い上げでグラスワンダーに襲いかかり頭の上げ下げの勝負に持ち込んでおり“さすが豊や”と改めてその手腕に感嘆、惚れ直したとも。あそこ迄やれば言うことなし、満足ですとレース後に取り巻いた記者連中へ笑顔でコメントはしたものの、あく迄もその場を繕ったに過ぎず。以後3日ばかりは、負けた悔しさが時と所を構わず頭に浮かんでは消え、消えては浮かび白井師を苦しめ続けた。

 “そりゃあ勝ちたかった”と醒めて語れるようになったのは正月明けから。引退式に備え、黙々とトレーニングに励むスペシャルウィークは、元気があり余って走りたくて仕方ない様子。“もう1年走らせてやればよかったのに”と言うと、複雑な表情で相槌を打つ白井師。

 福永や、いろいろなジョッキーが引退前に是非1度跨がらして下さいと頼みに来る。白井師も名馬の乗り味を記憶に刻み込んでおこうと、最後の運動には乗る予定にしている。

編集局長 坂本日出男



目次へ戻る

(C) 1999 NEC Interchannel,Ltd./ケイバブック